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概要

gakuto

150とんどパンツ一枚のあわれな姿であった。火傷をしていない生徒は、ひどい打撲傷で足腰が立たない有様である。 ある部屋で私が叫ぶと、一婦人が、「この隣りの学生さんが一中の生徒さんです」と教えてくれた。傍によって見ると、本人はほとんど昏睡状態である。私が軽くゆり起こすと、かすかに目を開けた。パンツの荷札に鉛筆で、草津町田村、と記してあった。 「君は草津駅前の田村君か」と尋ねると、しばらくして不思議そうに私の顔を眺めて、「ハイそうです」と力なく答え、そのまま眠ってしまった。「しっかりしておれよ。草津のお母さんの方へ連絡してやるから」と、耳のそばで云ったが、なんの返事もなかった。 隣りのオバサンから氷のかたまりをもらって口の中に入れてやると、ほんとに美味しそうにカリカリとかんで、再びグタリと眠りについた。私は後髪を引かれる思いで次の病室へと向かった。同伴して捜査して下さった三島さんが、「息子さんがおられましたよ」と私に急報して下さった。 私は急に、わが子の姿を見るのがなんとなく恐ろしくなり、少し足がゆるんだ。弘明は、一番奥の兵舎の一隅の板張の上に横臥していた。 パンツ一枚である。全身火傷で、わが子の日常の姿は全く認められず、火ぶくれになって顔面はふくれ上り、パンツのネームと軍の荷札の名前によって、ようやくわが子たることを確認するほどであった。私も、もうこれでは駄目だと思った。 前記の田村君はその後どうしているかと胸がさわぐので、再び彼の収容室に行ってみた。彼はもうこと切れていた。(八月七日午後三時頃)体はまだ温かい。あまり苦しんだ様子はない。私は合掌した。せめてもの形見にと、彼のパンツに縫いつけてあった名札を取りはずして、懐中に入れた。 再び私は合掌して死体に別れを告げて、死の寸前にあるわが子の傍に帰った。しかし、なんとも施すすべもない。ただ茫然と、悲惨な姿の子供の傍にいるのみである。長男は昏睡状態を続けている。 またしても田村君のことが気にかかるので、もとの