ブックタイトルgakuto

ページ
97/326

このページは gakuto の電子ブックに掲載されている97ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

gakuto

83 被爆の記録被爆の記録黒石 雅子 私は二階の教室より廊下に出た瞬間の出来事です。建物のくずれるのと、マグネシウムの様な光、爆音も同時だったと思います。柱がいりみだれて落ちるのもおぼえています。 その頃教わっていた「焼夷弾が落ちた時は眼を四本の指でおおい、親ゆびで耳の穴をふさぐ、口をあける」と咄嗟に私はその通りにしたのです。すると口の中に焼けた砂を流し込んでいる様な、何とも言えぬのどの痛みを感じた事でした。 無我夢中、はいあがった運動場は、土ぼこりで一尺前の人の顔もわからぬ程でした。少しばかり前の見とおしのつく頃、死んだ方をみました。動いてはいませんでした。女学校なので女であるという事が判るだけでした。 近寄って手をふれなかったのが悔まれます。それと力の限りそれぞれに、息をされてはいないかどうかたしかめる事がどうして出来なかったかと……。 機銃掃射の危険をさける為、あの日も黒い服を着ていましたし、髪もどんなだったかはっきり記憶にありません。勿論顔の方が肌色でもなく、上向きか下向きかもはっきりしません。どちらが顔だか後だか、ちょっと離れた所ではわからぬ程でした。 はい上った私の上半身は、窓からさし込んだ光で焼けたのか、服は破れてパラパラでした。頭に手をやると、髪の毛も少なくなっていました。顔は手のぬれる程にきしるが出ていました。一番焼けたのは顔で、一時は失明もしていました。両うでをみれば、手の甲までほこりときしるでねりついていました。柏原さんと逢って、二人で帰りました。 途中頭が二つに割れて血にそまった人や、道にころがる人に逢いましたが、誰も一糸まとわず、男女の差別もつかぬ有様でした。その方達が焼けた痛さにたえ