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概要

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82とのことだった。しかし、一週間たっても、二週間たっても、目を明けなかった。九月もなかば、私も床の上へ起きられるようになった。兄も帰って来たので、母は尾道によい眼科があると聞いて出かけたが、もうその時は手おくれ。原因は栄養失調からだということで、とうとう失明した。八月五日夜、宇品で見たあの笑顔が最後だった。家族はみんな泣いた。悲しみのどん底だった。特に母は断腸の思いだったにちがいない。姉は行方不明のまゝ帰らぬ人となった。父は衛生兵だったので似島で被爆者の看護にあたった。それはもう惨たんたるものだったという。まるで生地獄を見ているようだったとか。私の傷も少しずつよくなった。母に髪をといてもらう度に、束になり抜けた。その時の身ぶるいするような気味悪さ。並み並みならぬ母の力によって、奇跡的にも一命をとり止めた。しかし完全に快復するまでには半年以上の月日を要した。何の罪もない多くの人々が、苦しみ悲しみ、犠牲者となった。戦争さえしなければ、原爆さえなかったなら、このような悲惨な苦しみはなかったであろう。 三十六年たった今でも、戦争の傷跡は心の奥深く刻み込まれ、ケロイドという形となって今もなお私を苦しめている。 二度と戦争をくり返してはならない。三度許してはならない原爆を。私の心からの叫びであり願いである。(旧姓 橋本)