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概要

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73 キノコ雲の下でがぺしゃんこに潰れて見る影もない。やっと校門の石柱が見えた。そこから校外に出た。 とにかく体が熱くてたまらない。川に飛び込んで冷やしてやろうと、近くを流れる京橋川の方へ歩いた。川岸までゆくと他校の生徒も混じって大勢の者が思い思いに川の中へ飛び込んでいる。私も服のまま飛び込んで、首まで水に漬かった。 川から岸に這い上がって、濡れネズミのまま、とぼとぼと自宅に向かって歩いた。歩きながら自分の体を確かめると、顔はどうなっているのか分からないが、左手・腕・右胸・左腿など表皮が黒ずんで縮れ、破れかかったり、ひきったりしている。とくに左の前腕がひどい。「この傷は何だ」、頭が混乱しているのか、今まで見たことのない傷状に、それが重度の火傷であることに気付くまでには時間がかかった。 とにかく病院に行こう、自宅近くに軍の共済病院がある(現、南区宇品神田、県立広島病院)。そこに行って治療してもらおうと思った。 帰路、町の様子は一変していた。今朝ほど通ってきたときの姿はなかった。家々はあるいは倒壊し、あるいは傾いてつぶれかかり、早くも火の手があがっているところもあった。道端には血に染まって倒れている人、子供の泣き声、家族を探す声、多くの負傷者がぞろぞろと行き交う。阿鼻叫喚の巷。 共済病院に着いてみると、木造の建物は内部まで滅茶滅茶に壊れ、その中に大勢のケガ人が押し寄せていた。医師や看護婦の姿はまばらで、手が廻らない様子で混乱していた。自宅の母のことも気になるので、とりあえず病院は後まわしにして自宅に帰ることにした。 自宅も木端微塵に壊れていた。土足のままあがった。母の姿はみえなかった。心配しながら、とにかく自分で傷の手当をしようと思い、水で傷口を洗った。表皮がずるっと剥げて、下に白っぽく変色した皮膚が見えた。救急箱の中から硼酸の粉を取り出して傷口に塗っていた。そこへ母が無事な姿で戻ってきた。近くに住む実家の祖母と叔母の安否を確かめに行っていたとのこと。幸運にも、母は丁度あの瞬間は自宅の裏庭