ブックタイトルgakuto

ページ
67/326

このページは gakuto の電子ブックに掲載されている67ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

gakuto

53 六十年目の夏に 二十九歳で夫を失った義母は、残された五人の子どもを、死に物狂いで育てました。 「泣いとる暇なんかなかったよ。でも、余りの辛さに末の子を背に何度天満川の辺に立ったことか……死んだら楽になる思うてね。お父ちゃんさえ生きとってなら、あんたらも中学出てすぐに働かさんですんだのに。」 「おふくろが泣いて話したで……」夫がぽつりと言ったことが思い出されます。 生き残った人達にも辛く苦しい日々だったのですね。美智子さん あなたは、何処でどうして亡くなられたの? 暑かったでしょう。苦しかったでしょう。お家へ帰りたかったよね。 だって、まだあなたはたったの十三歳でしたもの。 あの日四歳だったわたしは、あなたの歳をとうに越えました。 舟入高校を卒業した縁で、あなたの先輩や後輩の方々と交流が持て、あなたが愛した市女のことが大好きになりました。あなたが学んだ木造の校舎も、今ではモダンな建物になりました。市女時代の正門は、いまでも保存されています。 街も、人も時の流れに変化してまいりました。 でも、忘れてはいけないこと、伝えなくてはいけないことがあります。 毎年遺族会で行われていた慰霊祭は、近年舟入市女同窓会が主催しています。 慰霊式典には、毎年杖を手にご遺族の方が多数参列なさいます。 そして、我が子の名前の刻まれた銘碑を、それはそれはいとおしそうに撫でられるのです。お心の中には、きっとあの日のままのお嬢さんが生き続けていらっしゃるのでしょう。ご心中を思うとき、写真係も涙でファインダーが曇りシャッターを押す手がふるえ