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概要

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34かせる。赤チンキを塗っただけの手当て、こんな身体でよく歩けたもの、「家に帰りたい」と云う、「榎町にこれから行くから、知らせてあげるから頑張っててね」「弟妹達もきっと、どこかで誰方かに助けられているかも知れない。」灼熱の日差しの下で、寒い寒いと震えている佐伯君の身体に、私の着ているモンペの上衣を脱いで掛けてやり、後髪を引かれる思いでそこを離れました。車座に膝を抱え座り込んでいた少年少女の静かな姿、彼等は何を思っていたのでしょう。先を急ぐ余り何も聞いてあげなくて…誰方かが身内の方に看取っていただけたのでしょうか。今でもあの静寂な情景を思うと涙が溢れて参ります。 河原の避難の群をかきわけ我が家に向うが、天満町に入れない、彼方の空はまっ赤か紅蓮の炎で天満橋も渡れない、我が家が燃えている。「父さん母さん、皆どこ」これ以上は入っては危険だと制止され、兵隊さんに泣き叫んだあの時、「家族が皆燃えている。中にいるんです!」兵隊さんに腕を取られ、立ち尽くす、河原を彷徨い訊ね、収容所を探しましたが、誰の名前も残されておりませんでした。 家の焼け跡は、銀白色に、ここにも骨を見つける事が出来ませんでした。大手町に先祖の墓はあっても(墓は毀れていませんでした)何故かむなしく、お参りは六日は避けていました。 五十年過ぎ、学校からの慰霊祭の御案内頂き生かされている意味を思う時になりました。学校の慰霊祭にお参りしまして、やっと救われた思いでございます。 沢山の爆死した学生の名前の刻まれた碑の、良太郎の名の上をそっと、何度も何度もさすって「良ちゃん、お姉さん今貴方の傍にいるのよ」心で呼びかけ涙を拭います。六日の広島に私が立っているという事が皆への鎮魂と思える様になりました。 これからも健康と怪我に注意して、身体の続く限り貴方に会いに参りましょう。 総べて満ち溢れ捨てるも美徳の平和、勝つ迄はと自分を押え国の為、国の労働力の担手となって爆死した少年少女、この豊かさの一部でも味わわさせてあげたかったと、何十年たっても想は遡ってしまいます。