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概要

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33 六十年の追憶の中でた。大変頼もしく、生きていたらば、どんなにか楽しかったでしょう。今思えば大きな思い出を残してくれました。時日の別れがあるなんて……、後から思えば大切な別れの前の神様からの賜物だったのでしょうか。 凄惨な六日、学校にいた私は役場よりの一報に広島市内炎上の知らせを聞く、駐屯の軍隊のトラックに便乗市内へと走るが、既に避難の人々の群に阻まれ動けず車より降り己斐に向かってつっ走る。人々の着の身着の儘の姿に只事ではない、と気持ちが焦る、不安が広がる。途中夕立ちの様な俄にわか雨に防空頭巾を通して水が滴る。「黒い雨」己斐駅は、身内を探す人々で喧騒の渦。黒こげの死体、想像だにしなかった酷い情景に衝撃と絶望感に打ちのめされ乍ら、我が家へ急ぐ。寸断された枕木、線路をまたぎ土手を上ったり下ったり、浅瀬を探し川を渡る。夢中で歩く。天満町に向って、後から声がする「可哀想に、駅端で車座に座りこんでいるのは建物疎開作業の動員一年生の中学生と女学生だそうだ」 私は、ハッと立ち竦む、何とした事だ、弟との言葉が思い出される。今日は土橋辺りの作業に従事している筈だ、目の前が真暗、絶望感に打ちのめされる胸塞がる思い、まさかあんな姿が、十二才の少年、少女とは誰が思うでしょう。しまったダメだとつぶやき乍ら、全身の力が抜けていく倒れそうな心に「しっかりしろ、しっかりしろ」と励ましっ元来た道を引返す。男女の区別もつかない土左衛門の様な青膨れしコケシの目の一を描いた顔、髪も焼け、ボロ布の様に垂れ下がったそれは皮膚、一様に膝を抱え声も発せずしゃがみこんでいる。私は悲しみと怒りにも似た気持に、気がつくと私は絶叫していた。「大山良太郎いませんか」「こんな姿ではどんな肉親だって分る筈がないではないか」間もなく弱々しい応答があった。二中の同じ榎町の佐伯昭二君幼な友達で良太郎と一緒に作業していたと云う、爆風で飛ばされ皆ばらばら「俺について来い」の先生の叫ぶ声に川に向って土手を下りて行った人達、意識だけはしっかりとしていました。急揃えの軍隊のテント迄抱えて行く、むしろを敷いた草叢に寝