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概要

gakuto

22た。その間、見たことも聞いたこともない光と爆風が、ものの崩れ落ちる大音響と共に、意識や、感覚や、感情もろともに全く喪失してしまっていた。 飛行場周辺を彷徨中、寄宿舎の中で〝雲竜?と仇名した先輩に出会ってひと言ふた言言葉をなしたが、お互いに何を言ったのか覚えていない。彼の丸坊主の上のどこからか幾筋もの鮮血が流れ、顔は引きつって真っ青であった。やっと顔見知りの者に会えて気分が萎えたのか、そこには厳しかった上級生と下級生の間柄はなかった。二人は自然と草むらにへたり込んだ。ここまで逃げて来たという思いだけで、何事が起きたのか語り合うこともしなかった。 手のひらで流れる汗を拭うとべとつくような感じがする。見ると、それは血と汗とで塗料を塗りたくったような手のひらであった。とたんに、針の束で顔面を刺されたような痛みがはしった。右腕にも鈍痛を感じて見ると、袖口が引き裂かれていて、そこには径一・五センチ程の真っ白い肉塊が飛び出ていた。意外なことに流血はなかった。 その時は、時間の観念が全く無くなっていて、どれだけの時を経過したのだろうか。 広い場所のあちこちには、とぼとぼと人々が歩いていたが、それは集まって来るというのではなく、西にも東にも、南にも北にも交差して向かっている。行くあてのない行き先を求めているさまは、蟻がゆっくり左右しながら出会っては離れて行くのに似ていた。ここに見る人々は、一様に裸足である。着ているものは焼け焦げ、破れ、火ぶくれの顔、体中火傷した者、血を流している者ばかりであった。 先輩と私はうつろな状態でしばらく草地に座り込んでいたが、しばらくして、何故か私一人だけが寄宿舎に帰り着いていたのである。数ヶ月後、学校は再開されたが、〝雲竜?といったその先輩の姿をふたたび見ることはなかった。 寄宿舎は見るも無惨な形で倒壊していたが、幸いに近隣の建物までの延焼だけで止まり、炎も下火になっており、数人の舎生が、入学以来四ヶ月ばかりの住家というにはすでに形のない材木の山を、ただ黙って見