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概要

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301 爆心から八〇〇メートルの被爆敷になり助けを求めるお姉さんを助けてあげられなかったことが五〇年余り私の胸から離れませんでしたが、そのまま焼死されたことを聞き自分の気持に区切りをつけることができました。 京口門から西練兵場を紙屋町の方に逃げていると済美国民校(現在のYMCA)あたりで紙屋町方面から逃げてくる兵隊さんが紙屋町の方は火災が発生しているので引き返すよう言われ朝来た道を通って家に帰ろうと思い三篠橋に向うと橋のたもとは火の海で渡れません。しかたなく百五十メートル北にある国鉄の鉄橋を渡ろうと近づいてみると枕木が燃えていてここも渡れません。しかたなく線路を越えると長寿園の桜土手があるのでそこに一時避難して家に帰ること考えようと思いました。土手について見た光景はまさにこの世の生地獄でした。負傷者が一ぱいで座る場所もないのです。歩いていると「水」「水をくれ」と足ものから聞こえます。「水を含ませたら死ぬる」と言っている人がいましたが水を求める負傷者を見たときもうこの人達は助からないと思い、目にとまった洗面器に川の水を汲んで何人かに飲ませてあげました。しばらく歩いて座れる場所をみつけ、ようやく休むことができました。しばらくすると急に空が暗くなり大粒の黒い雨が通り過ぎました。体に当ると痛いような雨でした。そのうち疲れがでたのかその場で眠ってしまいました。ふと目が覚めると雨で濡れた体が冷えて震えていました。私の上に避難していた若い兵隊さんが震えている私に自分の軍服を掛けてくれ「お腹が空いているのではないか」とおにぎりをくれたので食べていると家の事を尋ねられ「長束です」と言うと「長束なら家も倒れていないので大丈夫だ。家の方心配しておられるから早く帰りなさい」と言われました。お礼を言って帰ろうと立ち上がろうとしたが歩けない。爆風で吹き飛ばされたとき足を痛めたのでしょう。しかたなく這って火が消えた鉄橋渡ろうと這っているとき、二、三度黄色い胃液のようなものを吐いた。鉄橋も這って渡り三篠の土手で細い柱をみつけ杖にし四〇分以上かけて午後三時頃家に辿り着きました。 負傷は顔右半分帽子から下、右腕を火傷しており、