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概要

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298まけにエンジン音と振動音で聴こえないようである。 仕方なく自分の足を少しづつずらした。隣の負傷者の気付かれたようで、何を言われたかよく分からなかったが、私には謝罪されたように聴こえたことを感慨深く思い出す。 やがて我々の乗ったトラックは、お寺に到着したようであった。 ギュウギュウ詰めで足の踏場もない程であったので、トラックから担架に乗せられる際、傷口に触ったりして「痛い痛い」と叫び声の連続で私も同様であった。 収容されたのはお寺の本堂らしきところで、既に多数の負傷者が収容されていた。 呻き声唸り声が充満しており惨澹たる光景であった。 本堂の中程あたりに運ばれ担架から降ろされた時、やれやれとほっとして、一瞬家に帰ったような気持ちになったのは錯覚であったのだろうか。 私は、比較的火傷の軽い右側を下に倒れるように横になった。 しばらくして回診された医者が、「聴診器を当てる場所がない、ひどい火傷ですが薬がありません。塗り薬の代用で野菜の摺りおろしたものを用意しているので待っててください」と言われ隣へ移られた。 国防婦人会の方か地元の勤労奉仕の方だろうか、「お粥を食べますか」と聞かれたが、「水」と言うのが精一杯であった。 振り返ってみると、心身共に極限状態を超えたところまで来ていたように思う。 段々意識が遠くなっているようだ。遠くで「ボーン」という柱時計の音だろうか朧げに聴いたように記憶している。(余談) 奇跡的に一命をとりとめた筆者であったが、語り部シリーズを通じてお分かりのとおり随所で人々の善意、情けを受けたことによって、私こと土井通哉を生へと導いていただいたものと深湛なる感謝をするとともに、不幸にして亡くなった学友の魂と一緒に、「生き抜くぞ」という決意を披瀝するものであります。