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概要

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297 生涯で一番長い一日と問いかけられた。 私は「向原まで帰りたいのですが、もう歩けそうにありません。何処か横になるところはありませんか」と尋ねたところ「この先に防空壕があるけえわしにつかまりんさい」と抱えるようにして案内してもらった。 「学校報国隊のマークをつけとられるが、どこの中学生ね」と尋ねられた。「広商です」と答えるのがやっとであった。 防空壕の中には誰もいなかったが、暗がりで座るのに手間どった。 どうやら藁莚が敷いてあった。横になろうとして、仰向けにひっくり返り火傷部分に痛みを感じたが、間もなく朦朧として奈落の底へ引き込まれるように感じた。 人の話し声がおぼろげに聴こえてきた。先程のお巡りさんが、お医者さんらしい人と話している。内容はよく分からないが「動員学徒が大火傷をして倒れているから診てやってくれないか」というように聴こえた。どうやら治療として注射をしてもらったように思う。「このまま、放っといたら死んでしまう。できたら病院か救護所に収容せんと危ないぞ」といったような会話であったようにぼやっとした記憶がある。 あとから思ったことであるが、菱型の学校報国隊のマークを縫いつけていたことが、原爆という大惨事の中で、私一人のために警察官の方が色々配慮していただいたことに思い馳せながら、感謝の念は無量としか言えない私である。 さて、このあたりからの記憶が途切れてくる。何故だろうかと考えてみるが思い出せない。察するところ心身共に喪失の状態にあったのではないだろうか。 突然、何か衝撃を受けたような気がして正気とは言えないまでも気をとりもどした。 私の左足の火傷部分に、何かが乗っているように感じた。確かめるため上体を起こそうとするがどうにもならない。廻りの状況を把握しようと横向きになると、となりの負傷しているらしい人が唸り声を出している。どうやら負傷者を運ぶトラックに乗せられている様子である。 話しかけようとしたが、声が掠れて伝わらない。お