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概要

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292ると火傷部分の治療は、馬穴のような容器に白い液体を放り込み、棕櫚箒のようなもので患部を塗りたくっている。なんと乱暴な治療だと思いながら、我々三人は、ひたすら待ち続けるのであった。 陸軍共済病院(現在県立広島病院)で治療を待っていたところ、突然空襲警報のサイレンが鳴り響いた。治療を待っていた負傷者たちは何処へ避難すればいいのか戸惑っていた。 警防団の人が、近くの防空壕へ入るように大声をあげている。 重傷である我々も緩慢の動作で附近を探しながら避難することとしたが、少なくとも私自身は、もうどうなってもいいという気持ちであった。 病院の前は、蓮田が拡がり民家がポツン、ポツンと点在していた。最初の民家の近くで人影が見えたので、「近くに防空壕はないですか」と尋ねたところ「防空壕じゃーないが縁側の下に穴を掘っとるけぇ、そこでえかったら入りんさい」と親切に言われお世話になることとした。 案内されて縁の下にもぐると、二畳位の広さで、すでに家族の方であろうか、四、五人避難されていた。「何処から逃げて来たんね」「ガス会社が爆発したんじゃいう話じゃが」「ひどい火傷をされとるようじゃが焼夷弾かいね」矢つぎ早やに問いかけられるが、「何が落ちたか分からんのです」と答えるのがやっとであった。 どの位時間が経過したか見当もつかないが、警報が解除された。 「何処に帰られるんですか、遠慮はいらんけぇ休んでいきんさい」と言われるまま畳の上で横になろうとしたが、私は全身火傷の状態であるので比較的軽い症状の右手で支えて柱にすがった。 うとうととしたような気がしたが、喉が渇いてたまらなくなり正気になった。奥さんに「すみませんが、大きなヤカンで水を貰えませんか」と計らずも三人声を合わせたようにお願いした。 家の人は「怪我をした人に水を呑ませたらいけんいうて聞いとるがどうしょうか」と相談されているよう