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概要

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284次々逃げ込む人たちに押されて下敷きになる。「お母さん助けて」と、あちこちで叫び声がする。私もここでは死ねないと、母の名を呼びながらもがいていた。誰かに手を引っぱられ奥の方に逃げることができた。圧死した人もあったらしい。空襲が終りトンネルを出て驚いた。工場は鉄骨だけになり、血を流している人々。私は靴がなくなり裸足で友達と宿舎まで帰り、生きててよかったと友と抱き合って泣いた。 作業がトンネル工場に移った。私たちは死を覚悟していたようだ。その頃の日記に〝神風特別攻撃隊の人たちに恥じない自分でありたい?としきりに書いている。 七月に入り急に女専の入学式に帰るよう言われた。勉強が始まった。広島は空襲らしいものもなく建物疎開が始まっていたが、静かな軍都だった。家は播磨屋町で中心地だったので、夜は父が家に残り、女、子供は郊外に疎開することになり、七月末、牛田に移りそこから学校に通うことになった。 八月六日、講堂で朝礼、校長訓話が終り、起立し、礼をし、顔を上げた時、B29の爆音。警報が解除になったのに変だなと、窓の方を見た。その時、あの閃光!マグネシュームを何千と集めたような光!とっさに椅子の下に潜り目鼻耳を両手で塞ぎ、気を失ったよう。遠くの方で「ドーン」、と音を聞いたような気がする。『下敷きになったものはいないか」と教頭先生の声。「ここにいます」「這って出てこい」、講堂の中心にいた私は、校庭の防空壕に入った。その中には暁部隊の兵隊が十人ぐらいいた。 何が何だかわからなくて、しばらくして外に出て見て驚いた。あのギラギラした夏の空は、どこに行ったのだろう。すべての音は無く、静かな夕暮れ色に一変し、遠くの方の家が二、三軒ぼーと燃えていた。校門の方に行って見る。元気な人は寄宿舎に助けに行けと言われ、四人で雨戸を持って向かった。学校は皆実町二丁目なので御幸橋を渡る。灰色のシーツのボロを被ったような大人や子供がゾロゾロと歩いてくる。訳のわからぬ恐ろしさの中、電車通りを進む。両側のつぶれた家から「助けて」と声がする。まだ火は出ていなかった。馬が車道でひっくり返って死んでいた。