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概要

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278 自分は帰ろうとして友人を尋ねたが姿が見えない。一人で勇気をふるいおこし十日市町あたりの障害物を分けて進んだ。横川町附近でひどく水が飲みたくなったので、ポンプに口を持っていこうとしたら、知らない老人から水を飲むと早く死ぬからと注意されたので中止して歩いた。運のよいことには間もなく竹野下君のお父さんに出会い助けられ自転車に乗せてもらったとのことであった。ちょうど見舞に来宅していた上級生の栗田君の話では、二中の生徒で可部の自宅まで帰ったのは、朝日君一人だろうと話しておられた。 翌八日の朝から容体は急変し寝床の中で「戦争にはどうしても勝つんだ」と叫んだり、「敵を切るから軍刀を出してくれ」と床の上に急に立ち上がったり、一日中狂夢の中にあって、九日の夜明け方、永眠した。 思えば、六日の朝自宅を出るとき、茶色になったシャツに地下足袋で元気よく「お母さん行って参ります」とあいさつし、その朝に限ってまた三十メートル位行ったところで、一度後を振り返り手を振った姿が目に浮かび、いとおしくてたまらない。 もう戦争は絶対にしてはならない。 原爆禁止を声を大にして叫びたい。父(故)朝日 輝一母   朝日みな子 明37・8・17生三男  朝日 俊明 昭7年生広島県立第二中学校一年生被爆場所 中島本町