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概要

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277 わが子の安否を尋ねて専在学中の長男の安否を尋ねたら、健在で先刻市内へ救護に出たとのことで一先ず安心し、更に祗園町から、三男(広島二中一年生)を尋ねようとする戸田一郎氏と同行し、山陽本線横川駅前を経て十日市方面に向かった。電車道は一面電柱や電線が横たわり、西側の家屋は火災で進行できそうもない。 負傷者数人を救護所へ運ぶ自動車に乗り西寺町のお寺の前まで行ったとき、僕は崇徳中学の○○だと呼んでおるが顔面を負傷しておるので姓名を聞きとれない。足も負傷して歩けないので、このままでは死を待つばかりと自転車に乗せ、祗園町まで引き返し診療所に収容してもらった。 ふたたび広島へ向かって出発し、間もなく町内の中央道路で可部町の竹野下弥一氏が負傷した三男を自転車に乗せて帰られるのに出遭った。大声で「朝日さん、あなたの子供だ」と言われて驚き、自転車から抱きかかえながらそのまま三菱精機広島工場の診療所に向かい、直ちに傷の手当をうけ少し休ませて、夕刻、自宅へ連れ帰った。帰宅して気分も落ちついたのか翌七日は意識は非常に明確で当時のことをぽつりぽつりと話してくれた。 それによると広島二中の作業場は新大橋に近い瀬川倉庫の所であった。午前八時前空襲警報の発令により直ちに倉庫内に避難したが、いったん解除となったので道路上に整列、先生の訓示中被爆した。何だか光とともに大きな音がしたと思う間もなく三人の先生が倉庫の下敷きになられたのを目撃した。多くの生徒も家屋の下敷きになり姿も見えなくなった。自分は道路上へ投げ出され負傷して倒れているところへ友人の玄道君(小学校の同級生)が来たので「玄道君、やられたのう」と言ったら玄道君は「朝日君もやられたのう」と言った。その時二人とも服の上着が焼けており、熱くて苦しいので共に川の中へ這入ったが少し寒くなったので岸へ上がり倒れていると、黒い雨が降り出した。こんどは橋の下へ避難していると、川の中を軍人のあやつる舟は筏に負傷した生徒が数人ずつのっかって国家「君が代」を合唱しながら下って行った。