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概要

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251 八月六日の歩み八月六日の歩み今井 健三 あの日、私は府中町南部警防団の分団長として、団員に手配し、当日の出広者の捜索に午前十一時、本部を出発し市中に向った。 自分にも中学一年生の次男が動員学徒として家屋疎開作業に従事していた。大洲一丁目東大橋より入市、段原山崎町辺りまで進むと、屋根瓦やら家屋の破損物で道は塞がれ、自転車の通行が不可能となり徒歩に変更した。 避難者は一ように両手を肱の高さに捧げるようにして歩き、顔は黒く焼けたり、赤く腫れ上っているので、親しい知人でも先方より声でもかけられない限り、誰だか判らない。手を前に捧げるようにしているのは腕の表皮が焼けてさがり、丁度ぼろ切れが下っているようであった。 比治山橋に出ると見渡すかぎり市内はまだ盛んに燃え続け、比治山の西に面した所では目通り三〇糎以上の松が真黒に焼け、途中から折れたり引き裂かれている。山の立木は黒焦げになった幹ばかり、既に南の方は海際まで焼けて遠い山々が近くに見え、北の方はまだ盛んに燃えていた。 その時橋の東詰は多数の罹災者が右往左往してごった返していた。 その中を軍のトラックが傍若無人に走り廻り、そのトラックには何か小高く積み重ねている。近づいてみるとそれは全部屍である、若しやあの中に可愛い我が子がおるのではあるまいかと思えば、もう気が気でない。「この車はどこからか」と尋ねると「三篠方面」との返答で、本当に救われた思いがした。 暫く合掌をして冥福を祈って別れた。 こんなに多くの非戦斗員が殺されているのにやり切れない思いを抱きながら先を急いだ。 建物の大半は焼け落ちているものゝ何かの燃えさし