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概要

gakuto

248して暗黒と爆風で思わず地際に伏せた時は持っていたこうもり傘に火がついて燃えていた。その時顔面、頭部、両手に大きな火傷を受けながら、元の下宿先に帰ってみれば家は半倒壊しそこら中大変な騒ぎになっていた。火傷はますます痛み、子供の安否が気に懸りながら夜を迎えた。四方から迫り来る火炎や、右往左往する半狂人、次々に死人が運ばれ火葬の火の手が川辺のあちこちに上っている。防空壕の中で一夜をあかし翌朝になると火傷のため顔面は腫れ、あたかもお面のように膨れ上った。濡れ手拭で頬かむりをし、マスクをつけ気遣われる子供の安否捜索に――。千田町から県女を目標に行くと、途中電柱は燃え、馬は斃れ、川の中には太鼓腹になっている死人死人。肛門は異様に飛び出し見るも痛わしい。死体の数々は累々と折り重なって私は夢遊病者のように恐ろしいとも思わず悪臭の中を進み県女の校庭に辿りついた。校庭には七、八人の女生徒の死体が転がり、男子先生の死体も幾つかあった。私と同じ運命にある父兄が杖の先で死体を調べていた。時の校長清水先生の白骨化された死体も校長室のあたりに見られた。次に赤十字病院に行ってみた。こゝでも「福原幸子??」と呼んでみる。持って来た水筒の水を求める人々に少しづヽ飲ませてあげる。病院の入口あたり夥しい死体より発する悪臭に鼻や口をおヽいながら尚も幸子の行方を捜し廻ったが分らない。七日、八日と幸子の行方を捜索したが、私も火傷の痛みに堪えかねて遂に九日郷里世羅郡へ帰ることにした。      ☆     ☆ 郷里より捜索に行って貰った人が、幸子を連れて帰ってくれたのは十一日の午前十一時頃であった。親子は生きていたことを喜び合った。その日は比較的しっかりした意識の中で被爆の状況を話してくれた。丁度朝礼の時間で、電光一閃、爆風と同時に校舎が倒壊しその下敷きとなり意識を失った。気がついた時は大きな梁の下にあって僅かな隙きあかりをたよりに這い出てみると、既に火の手が迫っていた。素足のまヽ比治山方面に遁れた時救助され、似島に収容されたと云うのである。見たところ外傷はなく比較的軽傷病者の扱いを受けていたらしい。 しかし、ウラニュームを沢山飲んでいるため消化器