ブックタイトルgakuto

ページ
257/326

このページは gakuto の電子ブックに掲載されている257ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

gakuto

243 母の愛に守られて お風呂の好きな私は家の風呂がこわれたため近くのお風呂屋さんへ人の少ない時間に行っていました。火傷を見られるのがいやで角の方で背中のケロイドを見られない様に急いで体を洗い暖まって上っていました。三回目ぐらいの時、私が湯殿に入ると中に居た人達が皆上って行かれます。一人なので少しゆっくりお湯につかって上って行きましたら脱衣場に沢山おられて、私を見てニヤニヤしておられます。番台のおばさんに呼ばれ「あんたが来ると皆んな気持ち悪がるからもう来ないで」と云われ、私は風呂桶をかかえ泣き泣き走って帰り母に「なぜあの時死なせてくれなかったのか、死んでいたらこんな思いをしなくてもすむのに」と母を責めました。母は目いっぱい涙をため、「あの朝、お姉ちゃんといっしょに出て行ったあんたは火傷しても帰って来たがお姉ちゃんは帰ってこなかった。収容所も尋ねて廻ったがどこへ行ったのか、手がかりもなく火傷しても帰って来たあんたは助けなくてはと、火傷の跡がこんなにひどい傷跡になるとは思わなかったよごめんよ、ごめん。でもお前も戦争のためにこんなになったのだから兵隊さんといっしょだから、いばっていたらいいんだよ」と私を抱きしめながら背中をさすってくれました。 昭和三十四年、縁あって結婚し二年目に元気な女の子が誕生しました。よくお乳を飲みまるまると肥えて、幸せいっぱいでした。三才の時、眼に異状が見つかり、「遠視」で「弱視」で「斜視」と診断されました。ほっておくと失明すると云われた時は、ショックで身体のふるえがとまりませんでした。原爆が影響しているのでしょうか、と先生に伺いましたが今の所データがないのではっきりしたことはわからないと、娘の顔を見ながら何も知らないこの子にまでもと、被爆したことをうらめしく思いました。 あの朝、いっしょに家を出た姉はとうとう帰って来ませんでした。秋には結婚することになっていたのです。どこで被爆したのか、どこへ逃げたのか、傷は、と両親は心配していましたが依然として消息がわかりません。お骨もありません。其の後二十年目に婚約者の方が姉が送った短歌を父の元に届けて下さいまし