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概要

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232追憶の記森本トキ子 私達一生忘れる事の出来ない八月六日。あの時市女一年生の二女幸恵が、朝「行って参ります」と元気よくにっこり笑って出て行きまして数時間後、広島市中は火の海と変わりました。 七日、八日探し続け、学校に行っても何の連絡も無いとの事で、夕方重い足を引きずり帰りました。九日似島にいる事が分りました。以下は幸恵の言葉のままです。 一時間作業し、八時休憩になり誓願寺の大手の側で腰を掛け、友達三人と休んでいると、ああ落下傘が三つ、綺麗綺麗と皆騒がれるので自分も見ようと思い、一歩前に出て上を向くと同時にぴかり光ったので、目を抑え耳に親指を入れて伏せたら、その上に一尺幅もある大手が倒れ、腰から下が下敷になり、頭の麦藁帽子は火が付き焼けていました。 長い事かかり大手の下から出る事が出来、あたりの友達を見れば皆目の玉が飛び出し頭の髪や服はぼうっと焼けて、「お父ちゃん助けて、お母ちゃん助けて、先生助けて」と口々に叫んでおりました。その時目を抑えた者が三人だけでした。「どうせ生きられないんだからみんな一緒に死にましょう。皆さん舌をかみなさい」と言って、「貴女は誰、貴女は誰」と名前を呼び合い手をつないで、そこへ屈んでおりましたが暑くて暑くてとてもいられませんので目の有る者だけ三人「逃げられるだけ逃げましょう」と、転びながら県庁の橋の所迄来たら一人の友達が「私死ぬる」と言って倒れられたので、二人は離れまいねと言って手をつないで、ひょろひょろしながら川迄下りました。その友達も「死ぬる」と言って水の中へずぶずぶと倒れましたので、背中の服を捉えて水の無い橋の下へ引きずって行きました。しばらくすると大きな真っ黒い雨が降り出しました。初めは飛行機が油をまいたのかと思い