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概要

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216 それから骸を負って、八丁堀から常盤橋を経て、牛田町二重堤防の奥まで行く。途中百メートル歩いて五分休み、百五十メートル行って十分休み、自分も倒れそうになり、夢で遠い旅をしているような感じであった。 やっと牛田の親戚に辿りついた。長女の無事の姿を見て先ず安心。「何時か」と問うと、「六時半」と言う。紙屋町から牛田まで五時間余りかかる。 その後の現場も午後から夜に入り漸次満潮となる。元安川の砂原も水に呑まれた。 この頃から宇品暁船舶部隊も続々上り相当収容された事と思う。然し乙女等の屍の中には遥か海に流れたものもあったろう。又堤防より上の方では水主町や木挽町方面に無数の屍も残った事であろう。今なお、百メートル道路の地下深く埋もれているであろう。 あの時乙女等が父や母、兄や姉をどのように待ち焦がれておったであろう。 私が子供を負って去る時「叔父さん、わたしも連れに来てネ」私は「静かに待っといで。先生やお母さんが直ぐ見えるから」思い出すだに断腸慙愧、幽かに乙女の声。○原爆慰霊碑文に一言。 「安らかに眠って下さい」といっても原水爆全面禁止をせぬ限り、これ等原爆犠牲者はいつまでも浮かばれぬであろう。あれから今年十三年。 我等としては金輪際、彼等の反省と罪状とを訴え、目的達成に邁進せねばならぬ。 次に「過ちは繰り返しませんから」とは誰が言うのか。少なくとも広島市民、殊に原爆被害者である我々には悲憤と嫌悪とを感ずるものである。この碑が外国、特にアメリカ人が慙愧の心から建てたものなら兎も角、いやしくも広島市民が建立したものとして未だに納得が出来ない。速やかに削除、抹殺して頂きたい。 どうしても入れるとすれば「米英ソ連よ、過ちは繰り返すな」と改めて下さい。この碑文の関係者、共鳴者へ希望する。故 山崎 仁子父 山崎太郎