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概要

gakuto

212て、火のようにあつい土地を転ばないよう注意しながら住吉橋まで辿り着きました。ここにも多数の負傷者が一箇所に収容されて病院に運ばれる手配中であったので、傷の軽い女の人に城子を頼んで学校に現地の救出方を知らせに帰った。 又自分が妻と共同に蚊帳と水をさげて子供の所に引き返した時は、午後九時頃。冷気は一層加わり川風は身にしみて、負傷者は呻き苦しむばかりでなかなか病院に運んでくれる様子もない。こんな状態ではみんな死んでしまうと思ったので、たまたま救援に来た十七、八歳の年若い特攻隊に頼み、陸軍江波分院に収容するよう手配を依頼し、道中は自分が案内することにし、病人を運ぶ車や戸板で仮の担架を作って貰った。途中至るところに焼けくすぼった電柱、家屋の中を通って病院に向かった。時に零時頃。 途中板の担架に蚊帳を敷いて寝ていながら無意識に「畳の上に寝たいよ」「横にしてねえ」「水がのみたい」とか、「坐らして」等言いつづけて苦しむのを見て特攻隊の方々に「この仇はきっときっと僕等が取って上げますよ、しっかりして下さい」と励まされ、一緒にただ泣くばかりでした。江波分院は既に満員で収容の室もないので、急に江波小学校教室が充てられる事になった。 負傷者は校庭に運び置いて、爆風で木っ端微塵に散乱した硝子等を真っ暗闇の中で整理して収容した。幸いにして城子は、医師の診察を受けて注射をして貰ったが、身体が大変に冷たいので直ぐ全身摩擦をするように注意を受け、二人で一生懸命に体温が移るよう腕の中に抱きこんで介抱したが、再び診察の結果死亡の旨言い渡された。時午前一時。 死体を校舎の一部に移し夜の明けるのを待った。周囲の負傷者は苦しさに泣き叫び、近くにいた七、八歳位の男の子は死の直前「お母さんはどこね、お母さん」と大声で呼び何か見ようとして両手を振り廻して、何も無いのに「蚊帳をのけて、早うのけて」と言いながら一人で息を引き取った。私達も一緒に気がくるいそうになる。 又隣りの方でしきりに「英子ちゃん、英子ちゃん」