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概要

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210膚が裂けてつづれ垂れ下がり無残な様相であった。太陽の照り注ぐ中をわれわれは黙々と急ぎ足で避難の列に加わった。途中五、六歳の女の子が皮膚を裂かれて、母を探し求めながらついてくるいたましさに妻は服を着せ与えたが、いつか人波に消え去った。漸くして江波陸軍射的場に来た。空は黒雲に覆われ雨は降り出し、傷ついた人々は諸所方々から集まり来て全市の被害を受けたことが正午頃にして解った。爆弾でなくて殺人光線だという程度のことが口伝えとなってひろまった。その後、敵一機が偵察に来たのみで不安のうちに半日は過ぎた。避難者は続々と増して斃れてそのまま死ぬる人あり、血まみれとなって水を求める等この世の生地獄かと思われた。幸い自分は非常用の救急薬を持ち合わせていたので皆に与えたが一向に効果なく、ただ吐気の症状を呈して苦しむばかりであった。これが今日の原爆症と記憶される。午後二時頃になって漸く気も落ち着いて来たので、一先ず長男(当時広島高等学校在学)、長女の動静も気がかりなので先ず市女に尋ねに行ったところ、女先生ばかり残っておられて今のところ現地との連絡もつかず、十分に判明し難いから今暫く待ってくれとのことであった。学校も北側校舎は倒壊して瓦も柱も折り重なって想像以上の被害を蒙っていた。五時頃再び学校を尋ねたが現地から連絡もなく、男子の先生が多数引率しておられるので心配はないとは思っているがこちらからも行ってみるとの話し合いの折も折、あわただしく大声で父兄の一人が「市女の生徒は全滅だ。早く行って何とか救い出さないと可哀想だ」この一声を聞いて一瞬不吉の予感に打たれながら自分は又大声で「さあ現場へ行こう。あの方面は委しく知ったところですから道案内します。父兄はついて来て下さい」と言って裏門から走り出て、電車道を北上して舟入本町交叉点から住吉橋を渡り、火焔燃え盛る中を吾を忘れてまっしぐらに万代橋西詰に来た。この周辺は第六次疎開でほとんど家屋は取り壊されて後始末に動員された一般人も多数作業していたらしく、死体は累々と折り重なっておった。「さあ皆さん、この辺りから手分けして吾が子の名を呼びつつ上りましょう」。河岸沿いに「城子ちゃ