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概要

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209 城子の最期城ムラ子の最期坂本  潔坂本 文子 八月五日午後八時を過ぎる頃、敵機が大編隊で広島方面を空襲するとの警報が出て、全市は燈火管制に入った。数分後にして敵機は広島の上空に姿を現したがそのまま西方に向かって、何の被害もなくただ恐怖のうちに一夜を明かした。当夜われわれ親子三人は防空姿で不眠のまま六日の朝を迎えた。この日長女(当時二年在学)は早くから勤労作業場所に行く仕度をしながら母親とこんな話をしていた。 「今日の作業は午前中だから、早く帰って友達と一緒に学校に行く約束したのよ」 「今日はお兄さんも動員先から帰ってきますよ。暑いようだから氷を買って待っていますから、お友達と一緒にお帰りなさい。気をつけてね」 こんな話をして嬉しそうに家を出て行ったのを床の中でうとうとと聞いていた。長女は入学間もなく学校の裁縫室で針が足に刺さり、続いて風邪で軽い肋膜を併発して長い病院生活をした。二十年の一月頃から漸く医師から通学を許されたが、勤労奉仕には余り従事出来なかった。六日の疎開作業には校長先生からの訓示もあり、本人の要望によりお友達の弁当の番をする程度ででかけた。午前七時半頃空襲警報に入ったが間もなく解除となった。一息した午前八時過ぎ、轟然一発閃光一瞬にして家屋は倒壊の惨状。おそらくは爆弾投下と叫んだ。間もなく遠く近く騒音が聞こえて来た。屋外に出て見ると見渡す限り地上の物は悉く吹き飛んで一物もなく、さながら曠野に等しい有様であった。われわれは再襲を恐れて一先ず江波山に避難することにした。行き交う人々の顔や足は火傷し、又は血まみれとなり、身体には一糸纏わずただただ恐怖と戦慄に右往左往するばかりで、子供は泣き泣き親を呼び、妻は夫を探して相互に肉親の名を呼び続けて悲惨極まりなく、中には衣類が裂けているのかと見れば皮