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概要

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207 三人の学徒三人の学徒長尾 梅代 あの朝、長男孟良は、修道中学二年生で、雑魚場町の建物疎開の跡片付けに出ていくことになっておりました。「お母ちゃん、解除になった、行ってきまーす。」と大きなシャベルをかつぎ、元気よく出ていきました。私の家は翠町にありました。炊事場で後かたづけをしておりますと、大きな音と共に床下にはね落され、次々と何か背中に落ちてきます。息をのんで、じっとおさまるのを待ち、這い出ました。 外に出てみると、今まで青々茂っていた大きな蓮が、一面枯れ葉となって遠くまで見渡せます。赤くたれ下がるその蓮の葉の間を、焼けただれ、髪を逆立てた人間が、次から次から逃れて来ます。その姿は、まるで幼い頃お祭りで見た地獄絵図と同じでありました。 もう四時頃であったでしょうか。「お母ちゃん」と孟良が帰ってきました。「お母ちゃんが生きていてうれしい。梶原君も平本君も家は焼けてしまったの、お母ちゃんもいないから連れて帰ったよ」 三人とも上半身裸です。首から上、両腕がひどい火傷、まるでふかしたジャガイモの皮がめくれたように、ぶらぶらしています。上衣は焼けおちて、無いのです。その部分だけ皮膚が残っておりました。あまりにもむごい姿、三人を元気づけて、宇品に近い県病院へ連れて行きました。しかし門前で「薬がない、来てもころぶところもない」と断られました。仕方がありません。家へ連れて帰りました。散乱したガラス片を掃き寄せて、何の治療もできないままに、不眠不休で夜を明かしました。電灯は無くても、赤々と燃え続ける市中の火で部屋は明るく、ふくれあがってどの子も見分けのつかない顔を映し出しました。 九歳だった娘は無事だったので、田舎の親戚へあづけました。三人の瀕死の子供たちから、私は手が離せ