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203 想い出想い出平泉 清子 その日、夜になっても浩二は帰って参りませんでした。翌日から主人は息子を探しにでかけ、八日は二人で探すことにいたしました。途中ではまだ余燼がくすぶり、至る所に死骸が積み重ねてありました。火傷をされた方達はテントの下に大勢横たわっておられましたが、とてもお気の毒でまともに見ることができず、私も生きた心地が致しませんでした。 江波の陸軍病院にも参りましたが、「該当者はいない」とことわられ、すごすご帰宅しました。翌日からは主人が一人で探しに出掛け、高須の新納さんのお父さまと舟で島へも渡りましたが、なかなか見つかりませんでした。 十日の朝のことです。五日市に住んでおられるという婦人が見えて、「私の母が江波の陸軍病院で昨日亡くなりましたが、お隣のベッドでお宅の坊ちゃんが余りにおとなしくしておられるのが不憫で、一日介抱してあげました。まだ息があるかどうかわかりませんが、すぐ行ってあげて下さい」とご親切に伝えて下さいました。私は嬉しくて思わずその方を拝みました。早速病院へ行きましたところ、浩二は顔と右手にひどい火傷をして横たわっておりました。私は思わず「浩ちゃん」と叫びました。その声でわかりましたのでしょう、「お母さん」と言って思わずしっかり抱き合いました。「僕、もうお手洗いに立たなくてもいいでしょう」と言うではありませんか。とても我慢強い子でしたから、この身体で、つらいのを辛抱しながら行っていたのかと思いますとかわいそうで涙が出ました。 回りのベッドには六、七人の子供さん達がおられましたが、家族の方が看護しておられる方は少なく、ほとんどの子供さんは身寄りも無く、あちらからもこちらからも「おばさん、おばさん」と声をかけられ、私