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概要

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192い」と伝えられました。 私達の通勤コースは、江波山を中心に海岸端を歩くか、江波病院前からバスに乗って鷹野橋に出るコースがありました。その日は広島の変事のためバスは不通となり、私と数人の級友は本川沿いに歩いて帰りました。途中、三軒茶屋というところまで来ると前方が燃えていて進むことができません。黒い煙を吐く炎を見て私達は戸惑いましたが、幸い三軒茶屋には昔交通のひらけなかった頃の名残でしょうか、茶屋がありそのすぐ近くに、対岸に渡る渡し舟が人をはこんでいました。私達は舟で向かい岸に渡りました。本川の流れに幾つもの死体が無造作に浮かんで流れていました。土地感のない場所に上陸し、飛行場のような広場を抜け工場地帯を横切り元安川の川端に出ました。そこでは、ドブ川に幾つもの死体が転がって流れをふさいでいました。夕方私達は南千田町の寮に着きました。学校も寄宿舎も、木造の建物はペシャンコに押しつぶされていました。 その夜は寮に寝泊まり出来ず、私達は防空壕に寝ることになりました。身の回りの消息も殆ど分かりません。寮生の帰着もバラバラで、市内の建物疎開に出動した下級生は全滅ではないかとの情報が入っていました。学校近くの京橋川沿いに貯木場があり、その土堤は市内に入れない避難者であふれていました。夜半、寮生のなかに大怪我をしたものが帰り着き、その生徒を田舎に緊急に帰すために、広島駅に送って行けということになりました。闇明かりの焼け落ちた街を、私達数人が担架をかついで駅に向かいました。御幸橋、専売公社、比治山下、的場、広島駅へと、まだ燃えている街、残骸だけを残した街、焼場の異臭で鼻がつまりそうな街を、余熱を避けて道の中ほどを選びながら私達は歩きました。担架の中の怪我人はジッと動きませんでした。駅は一階まえ炎をあげて燃えていましたが、殆ど伽藍洞になり、灯のない暗い構内は逃れて来た人でごった返し、汽車に乗ろうと混乱していました。広島の街は一晩中燃え続けていました。 眠れない夜が明け、朝になりました。悪夢のような出来事が、明るすぎる程の日差しの中にあります。消