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概要

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189 古里へ向かって歩いたあの日古里へ向かって歩いたあの日平山 郁夫 あの日は渕崎にあった陸軍兵器支廠の材木置場で作業することになってましてね、そこに着いて着替えていたんですよ。何気なく外に出てみると、上空にスーッと入ってきたB29が落下傘のようなものを落とすのが目に入った。 「おい、変なものが落ちてくるぞ」と、仲間に知らせに小屋に入ったときでした。窓も無く、薄暗かった板張りの小屋の中がパーッと真っ黄色になるぐらいの大閃光に包まれたんですよ。とっさに目と耳を手でふさいで床に伏したら、今度はガーンという大音響だ。ちょっとして外に這いだしてみたら赤や黄の炎や黒や白の煙のようなものが、火山の噴火のようにむくむくと上がり出すのが見えるんです。方向からてっきり、兵器廠の弾薬庫が爆発したんだと思いました。だからすっ飛んで行ってみたんだが、弾薬庫はそのままだ。一方で大砲なんかが倉庫の端にペシャとたたきつけられ吹き溜まったようになっている。兵器廠のすぐ前まで火が燃えてきた。外を歩いているのは皆やけどをして、ガラスの破片が何十も体に食い込んだままうろうろしている人もいる。 一体どうなっているのか、尋ねようにも兵器廠に行ってた友達は見当らない。顔中が血だらけになった将校を見かけたんで「われわれはこれからどうすればいいんですか」と指示を仰いだら「自由にしろ」と言う。「逃げてもしかられませんか」とさらに聞くと「しかるもしからんも、この状態を見ろ。もうダメだよ」と言うんです。 比治山の裏の被服廠の前にあった下宿に行ってみた。私の部屋があった二階が崩れ半壊状態だ。おばさんが頭から血を出して呆然としているんですよ。二、三歳だったおばさんのおいが吹き飛ばされていなくなったらしい。結局その子は行方不明のままでしたがね。