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概要

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187 私の八月六日せたままでおりました。 伏せている私の脚の方から「おい中西、大丈夫か」という声がするのです。首を上げて振り向いて見ると仲の良い友人の顔が、私の脚の向こうにのぞいていたのです。私達二人は立ち上がって、周囲を見回しました。建物の配置のせいかも知れませんが、見える範囲では全く人影はありませんでした。二人は恐る恐る歩きはじめました。 最初に驚かされたのは弾薬倉庫の頑丈な鉄の扉が「くの字」にひん曲がっている風景でした。その倉庫は四方に土手がめぐらせてありまして、近くに爆弾が落ちても、その土手がさえぎって建物を守る形になっていたのですが、土手に異常がなくて扉が曲がっているのは、当時の私達の常識では考えられないものだったのです。 不思議の国にでも迷い込んだような気持ちで歩いている中に、他の友人や工員の方達にも会い先生から今日はとにかく家に帰るように、そしてとりあえず八月十五日に出てくるようにと言われて一同はそこで別れました。 幸いなことに兵器補給廠へ行っていた私達は、友人の一人が逃げ場が悪くてガラスの破片が顔に当り軽いケガをしただけでした。私はすぐには帰る家もありませんので、とりあえず寄宿舎に帰りましたが木造の寄宿舎は完全にぺしゃんこになっておりました。その建物は平屋建てだった上に私達の部屋は一番端っこにありましたので、見当をつけて屋根をはぐり自分達の荷物を引っ張り出してまた兵器補給廠へ引き返しました。引き返して見ますと島から通っている友人達がとても港へいけそうもないからと残っていたりしましたので一緒になって、ともかく学校がどうなっているのか学校へいってみようということになりまして門を出て比治山橋の方へ向かいました。 そしてそこで見たのです。はじめは、この人たちは何をぶらさげて歩いているのだろうとけげんな気持ちで近寄ってみると、それはやけどでむけてしまった自分の皮膚が指の付け根でとまっていて、丁度ボロ布をぶらさげているような格好になっているのです。比治