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概要

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5 命ある限り 忘れることはできない命ある限り忘れることはできない宮下 仁三 原爆の投下された日。それは、五十年余りも前のことですし、私も九十歳近くになりました。記憶も薄くなり、目も耳も不自由ですので、字も思うように書けませんが、まあ、あの日から私のした行動をたどって、見たままを綴ってみたいと思います。 当時、私は、国鉄に勤めておりました。 八月六日、八時十五分。私は徹夜明けで、家に帰って丁度食事中でした。その朝、息子が家を出ていく姿は、見ておりませんが、普段からいつも、「爆弾が落ちたら、すぐ帰ってこいよ」 と、話はしていました。息子は、「戦争に負けたらいけん。負けたらいけん」 いうて、何時もゲートルを巻いて、戦闘帽を被って、「行ってきます」 といっては、出ていっていましたので、あの朝もたぶん、そういって、元気に家を出ていったと思います 食事中に大きな音がしましたので、家から出てみると、広島か、府中町の方に、入道雲が、もやもやと上がっているのが見えました。これは只事ではないと思っているうちに、昼前から、火傷をした人が帰ってこられ、広島は火の海という話を聞きました。 これは大変!と思って向洋まで行きましたが、大洲橋からは広島へ入れないというので、その日は帰りました。 夜の明けるのを待って、家を出て、海田市まで汽車で行き、海田から、歩きました。広島駅前から猿猴橋を渡ると、もう、コンクリートの建物以外は全部焼けていました。電車通りを歩いて、紙屋町を経て千田町の学校に行きました。途中、電車の焼けたのや、人の焼死体も、あっちこっちにありました。学校に行きました。一人の先生のいわれるには、「引率者が帰ってこないので、何処に行ったのか、何