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概要

gakuto

170重い思い下岡 哲朗 八月六日八時十五分、東練兵場でみんなと一緒にパラシュートを見上げていた私は、その瞬間、恐らく吹っ飛ばされ、地面にたたきつけられたのであろうが、真っ赤な火の海の中を必死で走っている自分に気がつくまでのことは、時間にすればアッという間のできごとであろうが、全く意識にない。 炎のモヤが解けたあと、同じ方向に散った者同士は、興奮のるつぼの中にあった。「我々の集団を見て、焼夷弾を落としたのだ」などと言い合っているうちに、お互いの頬の皮膚がむけていることに気づいた。熱くてヒリヒリするので、無意識のうちに触り、たたいていたのか。 駅の方に進み、破壊された建物とあちこちに燃え上る炎と煙を見て、容易ならざることが生じたのを感じた。 舟入川口町のわが家に帰ろうとした私は、憲兵に止められた。「街は火の海で、とても通れる状態ではない。田舎に親類があれば、そこに行きなさい」と諭すように言われた。その恩人は、今もご無事であろうか。 トボトボと歩き続けて、十数キロは鳴れた奥海田村の本家にたどり着いたのは、もう夕方だった。「広島がやられた」というニュースは、もうとっくに届いていた。運の悪いことに、本家の伯父と長男の二人が、その朝、親類の荷物を引き取りに広島に出かけていた。しかも、爆心のほぼ直下、相生橋の近くの材木屋さんの家に……。 真夜中遅く、伯父が帰って来た。家屋、材木が燃え尽きるまで川の中に浸っていて、くたくた、ぼろぼろになった体を引きずるように帰って来たという。一服しているところを、突然、轟音とともに押しつぶされた。梁や柱に押さえつけられ、身動きがとれない。