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概要

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166 なぜ自分たちだけが生かされたのか。 人の世は、どうなっていくのか。 早くも、原爆投下から半世紀が過ぎようとしている。核兵器は以後、実戦にこそ使われないが、自らも破滅につながるから使わないだけで、自分勝手な正義のためには手段を選ばず暴力に訴える意識の根底は、変わっていない。人間は救いがたき存在であるのか。 被爆体験の風化が叫ばれて久しい。豊かな、物に囲まれた若い世代は、自己中心の意識から「ひと」と「もの」を粗末に扱う風に写る。だが直に話してみると、方向の定まらない多様な時代に人知れず不安を抱えている。〝若きヴェルテルの悩み?は、生きる助言をしきりに求めている。 図書館を訪ねてみたら「最近、原爆の手記を出される団体がふえている」という。愛する地球へ、鎮魂の思いを同じゅうする同輩が期せずして行動を起こしているのである。 暴力からはなにも生れない。自分たちが最後の生き証人として、多くの死者の身がわりとして、天命による役目をもって生かされている気がする。人間の良識が、愚行の歴史を繰返させない力を一層つけるように、実際に体験した事実をありのままに、後につづく人たちへ、〝語り部?として伝え、記録にのこしていくことが、その役目であり、多くの霊たちへのせめてもの供養である。 それは、老子にいう〝天に棄物なし?に通じ、大和の道に則る生きかたではあるまいか。