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概要

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154「高壮よい、高壮よい」 祖母、母、弟の高壮の様子を気にし、もう死んだものと思っているかも知れない。「早く起こしてよ、弁当をしっかり作ってよ、お母さん、おばあさん。早く起こしてよ。いま何時?」「お父ちゃん、家の者の命はありますか」「兵隊さん、どうしてこんとうになったんですか」(アメリカが爆弾を落としたんだよと答えてやる)「アメリカの糞野郎!!」 隣りの親切な看護のおばさんが一個の桃を下さったので、氷で冷し、切って口に与える。すいつくように食し、「ああ、おいしかった、おいしかった」「もうないんですか」少し与える。「ああ、美味しかった」「起こして頂戴や」「上野ガーデンへ行って下さい」「僕、もう死にそうです」「宿題があるんです」「頼みます、頼みます」「桃が美味しかったの。生まれてはじめて食った。ほかの者にやったね、田村や三島にもやって下さい」「お父ちゃん、よう助かったのー」「お父ちゃん、家の者の命はありますか」「早く帰りたいのー」「電車へ乗ってもよいかの? 電車へ乗るまいか? どうしょうか、おこられたら、いけんけん。兵隊さん、乗せて頂戴や、早く帰りたいです」「プールのほとりをちょっと見さして下さい」「吉田先生、森先生」「僕、死にそうです、どうしたら治りますか。看護婦さん、看護婦さん」「ここにおります。一中の堀弘明です」「水筒の水を下さいやー」「氷を下さいや」「品がないのー」 やがて、祖母との連絡がついて、祖母が来島した。「おばあちゃん、よう助かったのー」「わしゃ死ぬるんだろうかの?」