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概要

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119 下敷きとなった講堂からい」と心の中で詫びながら手を合わせその場を離れた。あの時の救いを求める絶叫が、今でも私の耳から離れない。 大腿部を骨折したらしい友人が一人、歩けなくて座り込んでいた。私よりずっと大柄な人だったが、何とか安全な所まで一緒に逃げようと思い、その人を半ば引きずるようにして、泉邸に逃れて行った。そこは、上流川町の閑静な住宅街の一部であった。いつもは、五分とかからない道程なのに、倒壊家屋の山や電線を避け、転がった木材を踏み分け踏み分けして歩くので、かなりの時間がかかった。 逃げ惑う人々の異様な姿を、不思議に思ってよく見ると、衣服はほとんど着けていない。全裸に近い身体は一様に赤く膨れ上り、男女の区別もつかない姿。皮膚は厚くクルリと剥けて垂れ下がっていた。まるで破れ障子かボロ布をまとっているようであったが、その時の私にはこれがどういうことなのか、なぜこんな姿になっているのか分からなかった。「原子爆弾」による火傷であることは、後日知った。 泉邸(縮景園)の庭は、避難した人々で埋め尽くされていた。その人たちは、「水、水、水をちょうだい。身体が熱い。水をかけてください」と一様に叫ぶ。瓦のかけらを拾って、水をくみに走ろうとしたが、「待てよ。今、水を上げたら、この人たちは死んでしまうのではないか」と、私は自問自答してためらった。他にも、「痛いよう。なんとかしてえーッ」と、苦しさから今にも狂わんばかりに泣け叫びながら川の方へ走って行く人、川岸まで来て力尽き倒れこんだまま亡くなった多くの人々、そこここに死体の山もできていた。 「救護所はどこだ。医者はおらんのか」と男の人の怒号が飛ぶ。日頃から度々訓練し空襲には備えていたが、いざという時には何の役にも立っていないと思った。広島市内全域が破壊されていたわけで、救護活動も不可能なことであった。しかし、その時は誰もが自分のいる周囲にだけ、爆弾が投下されたと思い込んでいた。 私たちの学校の近くに陸軍の西部第二部隊があっ