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概要

gakuto

117 下敷きとなった講堂から命の八月六日を迎えた。見るも無惨な地獄絵図 その日は、朝から雲一つなく、気温は早くも午前中に三十度を越す暑い日であった。広島女学院専門学校の百余名の生徒は、翌日から広島市郊外の向洋にある東洋工業(現マツダ)へ学徒動員で行くことになっていた。皆は講堂に集合し礼拝した後、編成替えのためそれぞれの学部別にホームルームに向かって退場し始めたその時だった。 突然、目の前に青白い巨大な閃光が、火柱となって目を覆った。「アッ」と思う間もなく「ドーン」と、耳をつんざく轟音と同時に、私は床にたたきつけられていた。そして、何か大きな物に抑えつけられたような感じがした。何分経っただろうか。いや、数秒であったのかもしれない……。 一瞬、気を失っていたようであったが、息苦しさで我に返り、慌ててもがいてみると、手足も動くし頭も動いた。痛みはないが、何も見えなく真っ暗闇だけだった。一体何が起きたのであろう。空襲警報は解除になっていたはずなのに……。混乱した頭の中で、「慌てるな。落ち着くのだ」と自分に言い聞かせ、じっと目を凝らして辺りを見ると、わずかに光が差し込んでいるのが見えた。砂ぼこりにむせながら苦しかったが、必死でもがき続け、ようやくそこへ這い寄った。それは、倒れたドアのすき間から洩れた外の光だった。 下からドアを押し上げ、ようやく外に出ることができた。私は助かったのだ。這い出してみて、初めて校舎が倒壊し、講堂の下敷きになっていたことが分かったのだった。あちこちから、次々と傷ついた友人が飛び出して来る。どの顔も青ざめて声もない。血糊がべっとり髪に付き、すさまじい形相の人もいる。「お母さまあ」と泣きながら出て来た人もいて、皆呆然と突っ立ったまま、何が何だか分からない様子であった。 周辺の街も一変していた。あちこちに垂れ下がった電線や、破壊された家の残骸が山のようになってい