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概要

gakuto

112の時、市内はまさに火の海で、逃げ惑う人々や、倒れて動けない人、川に飛び込んでそのまま息絶えた人たちで、地獄そのままのありさまでしたので、私たちは家族を捜すために入市することを許されませんでした。その日は、職場で仮眠を取りました。 一夜明けて翌七日に、やっと軍のトラックが、広島から通勤している人たちを乗せて市内に入り、それぞれが希望する所で降ろしてもらえることになりました。私は的場町で降りて比治山下経由の電車道に出ました。電車の架線は何本も垂れ下がり、電車も黒く焼けただれているさまに、思わず息をのみました。また、破れて垂れ下がった衣服をまとい、顔は黒ずんで、目も腫れ上がった人が放心したようにフラフラと歩いている姿も見ました。途中にある糧秣廠の倉庫は、まだ炎を上げて燃えていました。比治山神社の前は、道端に座り込んだ人たちでいっぱいでした。目の前を通る人を見ると、「水を下さい。水を下さい」と哀願しているのですが、通る人は、どこに行けば水があるのかも分らず、自分も身内の者を捜して回るのが精いっぱいで、足を止める人もなく、忙しく通り過ぎて行くばかりです。何とか自宅のあった所まで来ると、建物は、すっかり崩れ落ちて瓦礫の山になっていました。呆然と立ちすくんでいる時、弟が帰って来て、偶然の再会をいたしました。瓦礫の中に、板切れが立ててあり、「比治山の壕に行く」と書いてあるのが、何とか読み取れました。私と弟は多聞院の前を通って登って行きましたが、途中の谷間に死体がうず高く、小山のように積み重ねてあって、白煙が立ち上っているのが眼下に見えました。壕の一つ一つを覗いては声をかけていく中、吊り橋の下を通り過ぎた時、壕の中から「ここにいるよ」と父の声。私たちはお互いに手を取り合って喜びました。でも外で散水していた父は、上半身火傷で特に腕の傷は骨に達するほどの重傷でした。 閃光を浴びて倒れ、気付いた時は比治山神社の前にいたと言いましたが、百メートルは離れていましたのに、爆風の凄さを今さらのように感じました。母は家の中にいたので、倒れた建物の中にすっかり閉じ込め