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概要

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107 嗚呼原爆け、一人者の伯母も行方不明。大洲の工場に行って見たが、工場は少々崩れていたが焼けないで残っていた。仏具やかやの取手、真鍮がこもの袋に入れられ、何個も置かれていたがどうなったことやら……。歩くといっても、杖を頼りに、とぼとぼと空からの暑さに加えて周りが焼け跡で暑く、苦しい事は想像を絶する。馬が黒こげで倒れている。電車が黒こげで止まっている。若いお母さんが幼児を抱いて水槽の中で亡くなっている。道端では沢山の人が、「水、水を下さい」とうずくまっておられ、夕方そこを通りかかった時は、皆亡くなっておられた。兵隊さんが道路端の死体を積み重ねて、探している人に「早く見て下さい」と叫んでいたが、皆、人相も何も余りにも変わり果て、判ろうはずもない。似島に行くだけで一日出かけたら二日も、三日も寝て休み、夫は殆ど休みなく、毎日出かけた。大野の方から吉田方面まで、探した。私は農家で無理を言って、白米五合を分けてもらい今の安佐町多冶比の農家に一晩泊めてもらい一度だけ、二日続けて探すことが出来た。 八月、九月と懸命の捜査にも何の手がかりもないまま、市役所を訪れた。市役所の受付の人が「まあ二人共、行方不明とはお気のどく」と同情して下さった。蓋付湯呑みを少し大きくした様な器に入った男子の学生の遺骨十七才位と十四才位と書かれたお骨二個を頂いて帰った。帰宅した十月初旬に、お葬式をしたが、籍を消すのがどうにも可哀そうでずい分涙しました。春秋ある身を若くして散らせた親の不明を慰霊碑に、ぬかづいて詫びるのみでございます。