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概要

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98さがしあてた時のよろこび……。お水が呑みたいとしきりにせがむのに、やけどには水はいけませんとおっしゃる人様の言葉に、水筒に水がありながらほしがる水ものませないで……今も悔やまれてなりません。 やっと夜が明けかけた頃、小さい手押車にのせて一里半もの道をゴロゴロと帰って来たのです。元気なものも参ってしまいます。それを思うと今も胸がはりさけそうです。車どころが猫の子一匹通っていません。全くの死の街でした。顔は青くはれ上り眼もみえません。とても敬子の顔とは思えない程ひどい様子でした。両手の外側はひどい火傷でとても痛そうにうんでずくずくでした。勿論上着はありませんでしたが、身体と脚は火傷していませんでした。モンペも下半分はちぎれてありませんでした。ズック靴の小指のところが少しやぶれて居たのでそこに小さな水ぶくれの火傷があったのも哀れです。(当時は物資不足で少し位のやぶれははいてました) 朝学校を出て市中の建物疎開のため二中のグラウンドへ着いてすぐ原爆に会ったようです。牛田へ帰りたくても牛田方面は火の海で帰れそうにもなく、国道をトボトボと歩いていたら海軍のトラックが通りかかり「助けて下さい」と言うと、もう満員で駄目だと一度は断られたけれど、水兵さんが「お、よしよし」と抱いてトラックへ乗せて下すったそうです。「天の助けだった。お母さんも好いことをしなさいよ。」と被爆してからの様子を話してくれる頃には顔のはれも大分引いてやっと敬子の顔になったとよろこんだものでした。 近所で苦しそうにうめいていらっしゃる方の声が重苦しく一日中聞こえていましたのに、敬子はみた眼はとても痛そうなのに、あまり苦痛も訴えず、ほんとにこれで良くなるものと信じてましたのに、八日のひる頃静かに昇天してしまいました。 小さい胸に神を信じ、精一杯に生きていた命をうばうなんて……ああ!! ささやかな野辺の送りの時、通りかかりの兵隊さんが、この仇はきっととってあげますからネ、と大真ま面じ目めに挙手の礼でいって下すったのを、言葉もなく頭を