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概要

gakuto

92とはよく覚えています。途中、水道管がたくさん破裂していましたが、そこにはみな兵隊さんが立っていて、飲みたくても決して飲ませてくれませんでした。そこで、私たちは水たまりを探して、それがどんなきたない泥んこ水であろうとも、上のきれいに澄んだところだけを靴を脱いで、それでじょうずにすくって飲んだものでした。その途中で、行き会う人は、本当にのどが渇いて死にそうになっていたのです。 人間はある限界にきてしまうと、もうきれいだとかきたないという意識はなくなるのでしょう。水を飲み終わると、またその靴をはいて逃げました。途中、顔がひどくはれあがった人が来て、「竹内さんでしょう?」と聞いたので、「あなたはだれ?」と私が言いますよ、「私よ、金子よ」と、それは同級生の金子さんでしたが、本当にだれかわからない有様でした。顔が真っ黒に焼けただれ、服は着てるのか着てないのか、また皮膚とも全く区別がつかない程でした。その後、彼女とはいつのまにか別れていました。途中で出会う人達はみんな手を少し上げた格好で、腕の方からいっぱい着物が破れてたれ下がったようになっていました。しかし、後からそれが布でなくて皮膚であったことを知りました。顔なんかはれあがってしまっており、「痛いよ、痛いよ」とか「熱いよ、熱いよ」と、か細い声で言っていました。また沢山の人が焼け死んでいました。しかし、とにかく私たちは自分で逃げるということが精一杯で一生懸命に逃げ、比治山までたどり着きました。そこで兵隊さん達と一緒に防空壕に入って休んでいましたが、もう大丈夫というので、私たち三人はともかく学校に行こうということになりました。しかし途中、各々知人に出会い、私も東雲の方の知人に会い、その人はもう学校に行っても仕方ないし、家は焼けずに残っているというので、その夜はその人の家に泊めてもらいました。次の日、私たちは白島町の家に帰りました。帰る途中、男か女か見分けがつかないほど真っ黒になって焼け死んでいる人がいました。ちょうど腹のところをカラスが何かがつついたらしく、大腸・小腸がきれいな黄色をして出ていたのが見えました。それが印象的でした。ともかく二度と