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概要

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91 「助けて」の声を後に気を失なってしまってからは、はっきりと覚えていないのです。「助けて、助けて、痛いよ!」と悲惨な声が聞こえてきました。うっすら目をあけてあたりを見回すと、薄暗い中に同級生の末森さんと石川さんがいるのに気がつきました。私たちはちょうど生き埋めみたいになっていたのです。それで落ち着いてよくみると、暗がりの中に直径二、三センチメートル位の光がパァッと見えてきました。 私たちはそこを突いたら外へ出られるのではないかと思って突いてみると、穴は案外、容易に広がり、ようやくその中から私ははい出て、あとの二人もひっぱり出して脱出することができたのです。私たちのところは、ちょうどコンクリート壁が倒れかけたままで空間ができていたのです。本当に運がよかったのですね。私はもんぺにたばこの火がついた程度の焼跡ができただけで、ほとんどけがも火傷もありませんでした。しかし、ちょうど壁が完全に倒れた部分にいた人は本当に気の毒でした。背中に壁が倒れかかり、上半身は出てるのに下半身が壁の下に埋まって出られないとか、身体はほとんど出ているのに足首だけが埋まって出ないとか、いろいろな状態の人がありました。その中に同級生の一人が足だけ埋まっていて、「助けて、助けて」と言っていたのに私たち三人は気づきました。助けようとして一生懸命になって石をのけたりしたのですが、どうにもなりません。そのうちあちら、こちらからポッポッポッポッと火が出はじめ、自分も早く逃げないと危険だという状態になって来ました。 私たちはどうしようもなくなり、「ごめんね、ごめんね」と言いながら、必死になって逃げたのです。あの時の状態としては、ともかく自分自身がどうやって生きのびるかということしか考える余裕はなかったのです。しかし、今でもそのことが決して忘れられません。原爆の日が来るたびに、あの時「助けて、助けて」と、自分が言った「ごめんね、ごめんね」とが自然に言葉になって出てきます。本当にそのことは脳裏に焼きついています。どこをどう歩いたか、無我夢中になっていたので覚えていません。ともかく比治山の方に向けて逃げました。ものすごくのどがかわいたこ